「修斗軽量級のレベルは世界一。」
過去に限らず、現在においても軽量級のトップシューター達の口から発せられてきたこの言葉。ましてや、重量級トップランカーであった郷野でさえ「修斗重量級は、かやの外」と言い残して修斗と離別している。何故、そんなにも修斗重量級は見下されてしまったのか?歴史を辿ると、話は1998.8.29にまで遡らなければならない。そう。それは、今宵二度目のタイトル挑戦に挑む須田にとって、己の格闘技人生をより困難にする出来事であったのだ。
当時須田は、川口健次をキャリア中ベストバウトと言える内容で大逆転一本勝ちし、ライバルである郷野を押しのけ、エリック・パーソンの持つベルトへの挑戦権を得た。その3ヶ月前には、ミドル級チャンピオン決定戦で、桜井速人が中尾受太郎を下しており、いやが上にも、須田のベルト奪取に期待が寄せられた。須田の勝利は、世代交代を意味するだけでなく、川口の後継者として、世界と戦える日本人重量級シューターを待望するファン並びに関係者の念願でもあった。
しかし試合は、3R
4分48秒 TKO負け。
結果よりも、外国人選手の中では、テクニカルな(決してパワーファイターではない)エリック相手に、明らかなパワー負けという内容に周囲の落胆を誘った。そして、VTJ’98による壮絶なTKO負けにより、須田本人も外国人とのパワーの差を、まさに力ずくで認めさせられた二連敗であった。無様な己の敗北を期に、須田は肉体改造宣言と共に、長期休養に入る。世界に通じる日本人重量級シューターの誕生を待ちわびた期待が一転、須田の敗北により、世界の頂が雲の中に隠れ、手の届かないものになってしまった訳だ。
それから、3年以上もの歳月を経て、須田は再び世界の頂を駆け上がろうとしている。相手は、外国人選手切ってのパワーファイター「ランス・ギブソン」。試合中のラフファイトや違反行為、修斗のリングに上がることにプライオリティーを感じていないランスに、ベルトは渡せない。昨年マッハが、アンデウソンに敗れるまで、最もチャンピオンにしたくなかったトップコンテンダーだろう。ましてや、須田は昨年、僅差の判定ながらも完敗を喫している。こんな状況だからこそ、真の修斗好きで埋められた後楽園ホールは、異様な雰囲気に包まれた。
1R。開始早々目に付くのは、ランスの腹周り。とてもじゃないが、グッドシェイプとは言えない。しかし、そんなファンの怒りの視線もどこ吹く風、いきなり豪腕から右フックが飛んでくる。完全にヒールと化した、ランスの攻撃にホール全体が青ざめる。しかし、須田も負けてない。もともと、気持ちの強さを全面に出して戦うタイプだけに、ランスのプレッシャーは感じていないようだ。すぐに組みつくと、強烈なヒザでランスのボディを突き上げる。幾度と無く、須田のヒザが叩き込まれると、場内は一斉に須田を後押しする声援に包まれた。しばらく、須田はロープを背に、肩パンチや足踏み等の細かい攻防を展開するも、押されている感は無し。須田が、大外刈りでテイクダウンを奪いかけるも、ランスもすぐに起きあがり、再度差し合いの展開へ。須田が、ヒザを再三効果的に叩き込んでいく。終了間際、両者距離を取っての打ち合いが展開されるも須田優勢のまま終了。
2R。1Rより明らかに動きの重いランスだが、そのパンチは強烈。幾度と無く、KOパンチが須田を襲う。打ち合いに言った時に、須田のアゴが上がる癖が出始めて、内心ハラハラさせられる展開に。しかし、差し合いになると須田は豪快な首投げ。ランスの巨体が宙を舞い、リングへ叩き付けられる。重量級ならではの迫力から一転、須田は素早く、鶴屋浩ばりの足で相手の腕を挟み込むアームロックでキャッチを奪う。勝利を目前に場内は、オーバーヒート。「もう、俺には須田しか見えない。」と言った興奮の坩堝へ。しかし、ランスも懸命にタップを拒否。ランキング一位のプライドを見せつけ、力で腕をブン抜いた。
3R。ここまで、圧倒的に試合を進めてきた須田に、疲れが見え始める。ラウンドの大半は、ロープに押し込まれる展開に。終盤は、グランドでついに、ランスが上を取ることに成功。疲労感で動けない須田に、エリック戦が頭をよぎるも、観客全てが、須田のセコンドのように、須田の勝利を後押しする。ランスにとっては、我慢に我慢を重ねて来てやっと得意の上を取ったのに、時既に遅し、彼の燃料タンクには、須田を殴り倒せるだけの力はもう残っていなかった。
判定は、文句無く須田匡昇。
第三代ライトヘビー級チャンピオンの誕生で、修斗の全階級のチャンピオンが出揃ったことになる。長期休養中から試行錯誤し、恵まれない練習環境からも逃げずにやってきた。復帰後は、勝ち負けを繰り返し、試合後はいつも自分の不甲斐なさに憤りを感じていた。ただ、目標だけはしっかりと見据え、練習に打ち込んでいた。正月も返上し、練習に明け暮れた須田が手にしたものは、選ばれた者だけが味わえるチャンピオンという栄光。一度は、自らの無力さから、閉ざしてしまった世界への扉。しかし、その扉を再び開けたのも、須田自身。今なら、4年前見えなかった扉の向こう側が見えるだろう。さあ、その腰のベルトが世界への通行手形だ!
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